発達障害の子どもの「こだわり」とは？
私たちの周りには、独特の「こだわり」を持ち、日常生活に困難を感じている子どもたちがいます。彼らの多くは発達障害を抱えており、周囲の理解と適切な支援を必要としています。こだわりが強いがゆえに、指示が通らないことも多く、周囲とのコミュニケーションに苦労することがあります。本記事では、こだわりの強さゆえに日々の生活に苦労を感じているお子さんとそのご家族に向けて、具体的な事例と解決策をご紹介します。
【幼稚園】こだわりが強い子の具体的な行動パターン
幼稚園児のAくんは、自分の好きなように物事を進めたがる傾向があります。そのため、みんなと同じことをやることが難しく、指示に従うことも容易ではありません。これは、ASDやADHDなどの発達障害に見られる特徴の一つで、柔軟性の欠如や注意力の問題が関係していると考えられます。
Aくんの場合、塾の宿題プリントに特別なこだわりがあります。プリントに描かれているイラストを見ると、自分の好きなように絵を描き足してしまうのです。これ自体は創造性の表れとも言えますが、問題は宿題の取り組み方にまで及ぶことです。
例えば、通常とは異なるやり方で問題に取り組もうとします。「え～、そこからやるの？」と周囲を驚かせるようなアプローチを選ぶことが多々あります。最近では、分からないことがあれば「教えて」と言えるようになりましたが、教えられた通りにできないという新たな課題が浮上しています。自分のやり方に固執するため、結果的にできないことが増え、学習が進まないという悪循環に陥っています。
Aくんの母親は、これまでの経験から、素直に話を聞いて実行できる子どもは勉強の成績が良い傾向にあると感じています。一方で、勉強につまずく子どもは、素直に取り組めない子が多いとも気づいています。Aくんの場合も、自分の中に「リミッター」のようなものがあり、それを外すことができれば大きく成長できる可能性があると考えています。
しかし現状では、幼稚園レベルのプリントでさえ躓きそうになっており、勉強を続けるべきかどうか悩む日々が続いています。素直に話を聞き入れて成功体験を積み重ねることが、Aくんの成長にとって重要だと感じていますが、その機会がまだ十分ではないようです。
【小学校】こだわりが強い子への対応策
小学生のBさんは、授業中に教師の話を聞かずに別のことを始めてしまうことがよくあります。これは、ADHDの特徴である注意力の散漫さや、ASDに見られる特定の興味への没頭が原因かもしれません。
Bさんは、算数の授業中でも、突然自分の好きな恐竜の絵を描き始めることがあります。教師が注意しても、「でも、この恐竜の絵を完成させないといけないんです」と言い張り、なかなか授業に戻ろうとしません。このこだわりの強さは、学習の進度に影響を与えるだけでなく、クラスメイトとの関係にも支障をきたすことがあります。
また、給食の時間には、食べ物を種類ごとに分けて、決まった順序で食べなければ気が済まないという習慣があります。これにより、給食の時間が他の子どもたちよりも長くかかってしまい、次の授業の準備に影響が出ることもあります。
Bさんの担任の先生は、このこだわりの強さが学習障害（LD）や協調性運動障害（DCD）とも関連している可能性を考えています。特に、複数の課題を同時にこなすマルチタスクが苦手なため、授業中の活動や日常生活のさまざまな場面で困難を感じているようです。
【中学校】こだわりが強い子の成長をサポートする方法
中学生のCくんは、広汎性発達障害の診断を受けており、日常生活のさまざまな場面でこだわりの強さが顕著に表れています。
特に顕著なのは、時間に対する強いこだわりです。Cくんは、毎日の予定を分単位で管理しようとし、わずかなズレでも大きな不安や混乱を感じてしまいます。例えば、いつもより3分遅れて学校に到着しただけで、一日中そのことが気になって授業に集中できないことがあります。
また、Cくんは特定の科目や話題に対して並外れた興味と知識を持っています。歴史の授業では、教科書に載っていない細かな年号や出来事について質問を繰り返し、授業の進行を妨げてしまうことがあります。この行動は、彼の知的好奇心の表れではありますが、クラス全体の学習ペースとの調和が難しいという課題があります。
さらに、感覚過敏の問題もあり、教室の蛍光灯のちらつきや、廊下の足音など、他の生徒があまり気にしない環境音にも強く反応してしまいます。これにより、授業に集中できなかったり、ときには不登校につながったりすることもあります。
Cくんの両親と担任の先生は、彼の「発達の凸凹」、つまり得意な分野と苦手な分野の差が大きいことに気づいています。例えば、暗記を要する科目では優れた成績を収めますが、創造力や柔軟な思考を必要とする課題では苦戦することが多いのです。
どんな支援ができるか – 家庭・学校・医療機関・支援機関での対応策
こだわりの強い子どもたちへの支援は、家庭、学校、医療機関、支援機関が連携して行うことが重要です。それぞれの場面での具体的な対応策を見ていきましょう。
家庭での対応：
- 視覚的なスケジュールを活用する：日々の予定を視覚的に示すことで、見通しを立てやすくなります。
- ルーティンを大切にする：決まった順序で物事を進めることで、安心感を得られます。
- 好きなことや得意なことを活かす：こだわりを否定するのではなく、それを学習や生活のモチベーションにつなげます。
- 選択肢を提示する：「AかBか」という形で選択肢を示すことで、柔軟性を育てます。
学校での対応：
- 個別の教育支援計画を作成する：子どもの特性に合わせた学習方法や環境調整を行います。
- クラスメイトへの理解促進：発達障害について説明し、多様性を認め合う雰囲気を作ります。
- 感覚過敏への配慮：座席の位置や教室の照明など、環境面での調整を行います。
- ビジョントレーニングの導入：視覚的な情報処理能力を高めるトレーニングを取り入れます。
医療機関での対応：
- 適切な診断と評価：発達障害の種類や程度を正確に把握し、適切な支援につなげます。
- 薬物療法の検討：必要に応じて、注意力や衝動性をコントロールする薬の使用を検討します。
- 作業療法や言語療法：協調性運動障害や言語発達の遅れに対する専門的なアプローチを行います。
支援機関での対応：
- ソーシャルスキルトレーニング：対人関係やコミュニケーションスキルを学ぶ機会を提供します。
- 学習支援：個別の学習スタイルに合わせた指導を行い、学習障害に対応します。
- 保護者向けのガイダンス：子どもの特性理解や家庭でのサポート方法について助言します。
これらの支援を行う際に重要なのは、子どもの認知特性を理解することです。例えば、聴覚優位か視覚優位かによって、情報の伝え方を工夫する必要があります。また、ワーキングメモリの容量に合わせて、指示の出し方を調整することも効果的です。
さらに、行動療法的なアプローチも有効です。望ましい行動を具体的に示し、それができたときにはポジティブなフィードバックを与えることで、徐々に適応的な行動を増やしていくことができます。
まとめ
こだわりの強さは、発達障害を持つ子どもたちの特徴の一つですが、それは単なる「困った行動」ではありません。彼らなりの世界の捉え方や不安への対処法であることを理解し、寄り添うことが大切です。
同時に、社会生活を送る上で必要な柔軟性や協調性を徐々に身につけていくことも重要です。そのためには、家庭、学校、医療機関、支援機関が連携し、子どもの特性を理解した上で、適切な支援を提供することが欠かせません。
こだわりを完全になくすことは難しいかもしれませんが、それを活かしながら、少しずつ適応力を高めていくことは可能です。例えば、こだわりの対象を学習や趣味の発展につなげたり、ルーティンの中に少しずつ新しい要素を取り入れたりすることで、こだわりと柔軟性のバランスを取ることができます。
最後に、こだわりの強い子どもたちとその家族に伝えたいのは、決して自分たちは孤独ではないということです。同じような悩みを抱える人々や、専門的な知識を持つ支援者たちが、あなたたちの成長を応援しています。周りからの支援を受けながら、一歩一歩、ゆっくりと前に進んでいきましょう。
