幼稚園にお迎えに行ったとき、小学校の参観に行ったとき、他の子に比べて、なんだか落ち着きがない。動きが鈍い。手が不器用。そんなことを感じることはありませんか?そんなとき、感覚統合について思い出してみてください。ちょっとした動作を日常生活に取り入れるだけでOK。1年後、気が付いたらできることが増えていた、そんな体験ができます。運動神経が大きく発達する小学~中学の間にやれば効果抜群。身近な動作がひとつできるようになるだけで、発達障害のお子さんにとって、うれしいもの。できることが増えるごとに、自己肯定感が大きく上がるきっかけとなりますよ。
感覚統合とは?発達障害児にとっての重要性
1-1.感覚統合のピラミッドを理解しよう
感覚統合とは、私たちの脳が身体や環境からの様々な感覚情報を整理し、意味のある形で統合する過程のことです。この能力は、日常生活のあらゆる場面で重要な役割を果たしています。特に発達障害、広汎性発達障害(ASD)、発達性協調運動障害(DCD)、ADHD等の子どもたちにとって、感覚統合は非常に重要な概念です。
1-2. 発達障害と感覚統合の関係
感覚統合のピラミッドは、以下のような階層構造になっています:
- 基本的な感覚系(触覚、前庭感覚、固有受容感覚)
- 知覚・運動機能(姿勢反応、筋緊張、運動企画)
- 認知・知的機能(言語、学習、抽象的思考)
このピラミッドの底辺にある基本的な感覚系が適切に機能することで、上位の機能が正常に発達していきます。発達障害のある子どもたちは、このピラミッドの底辺部分に課題を抱えていることが多く、それが上位の機能にも影響を及ぼしています。
1番の部分が底辺にあたり、ピラミッドの上に進むと2番→3番と段階が上がっていきます。つまり、言葉を話す、学習するといったことは、高度な内容となります。高度な内容を学習するための土台として、基本的な感覚や知覚・運動機能は大切な要素。小さなうちから発達に心配があるお子さんにとって、1番と2番を伸ばす環境を用意してあげることは非常に重要です。
幼児期から小学低学年で習得する重要な動作と神経感覚
2-1. バランス能力と協調運動の発達
この時期に子どもたちが習得していく主な動作や神経感覚には、以下のようなものがあります:
- バランス能力:片足立ち、平均台歩き
- 協調運動:両手を使った作業、左右の手足を交互に動かす
- 手先の器用さ:ボタンの開閉、靴ひもを結ぶ
- 空間認知:障害物を避けて歩く、ボールをキャッチする
- リズム感:音楽に合わせて体を動かす
- 姿勢保持:椅子に座って姿勢を保つ
- 目と手の協応:はさみで切る、なぞり書きをする
これらの能力は、日常生活や学習活動の基礎となるものです。発達障害のある子どもたちは、これらの能力の獲得に時間がかかることがあります。更に入学後は学校での生活の中で、勉強以外の問題で様々な困難が生じてしまいます。
- 何も障害物がないのに、登校中に勝手に転んでしまう
- 体操着の着替えに時間が掛かる
- ずっと椅子に座って、話を聞き続けることができない。
- 黒板の字をノートに写すのに時間が掛かる
- リコーダーが苦手
- なわとびが飛べない
- 消しゴムを上手に使って、字を消すことができない・・・などなど
日常生活に困難を感じることなく、学校生活を送れるようサポートが必要となります。
2-2. 手先の器用さと空間認知の獲得
字が上手く書けない、漢字がマスの中に納まらない、そんなお子さんもいると思います。筆者の子どももそんな一人でした。字を書くという作業の中には、実はいくつもの工程が隠れています。
手先の器用さ:
手先の器用さは、小さな動きを正確にコントロールする能力です。字を書く際には、指先で鉛筆やペンを適切に操作する必要があります。この能力が十分に発達していないと、文字の形を正確に描くことが困難になります。
例えば、ボタンの開閉や靴ひもを結ぶような日常的な動作でつまずきがある子どもは、同様に字を書く際にも苦労する可能性が高いです。これらの動作はすべて、指先の繊細な動きをコントロールする能力に依存しているからです。
空間認知:
空間認知は、自分の体や物体の位置関係を正確に把握する能力です。マス目の中に字を書く際には、文字の大きさや配置を適切に調整する必要があり、これには空間認知能力が欠かせません。
障害物を避けて歩いたり、ボールをキャッチしたりする能力に課題がある子どもは、同様に紙面上の空間を認識し、その中で文字を適切に配置することにも困難を感じる可能性があります。
姿勢保持:
姿勢保持は、体全体のバランスと関係しています。椅子に座って姿勢を保つことが難しい子どもは、字を書く際にも安定した姿勢を維持することが困難で、そのため文字がぶれたり、マスからはみ出したりする可能性があります。
目と手の協応:
目と手の協応は、視覚情報と手の動きを連動させる能力です。はさみで切る、なぞり書きをするといった活動に課題がある子どもは、字を書く際にも同様の困難を感じる可能性があります。目で見た文字の形を、手の動きに正確に反映させることが難しいためです。
これらの感覚統合の要素が十分に発達していない場合、字を書くという複雑な作業は子どもにとって非常に困難で疲れる活動となります。そのため、練習を嫌がるようになることも珍しくありません。
感覚統合の視点から見ると、字を上手に書けるようになるためには、単に文字の形を覚えることだけでなく、これらの基礎的な能力を総合的に向上させていく必要があります。そのため、直接的な字の練習だけでなく、手先の器用さを高める遊び、空間認知を促す活動、姿勢保持の練習、目と手の協応を向上させる遊びなど、多様な活動を通じて総合的にアプローチすることが効果的です。
発達段階に応じたスモールステップ:苦手を克服する練習法
3-1. 現在の発達段階を正確に把握する方法
子どもの発達は一人ひとり異なります。特に発達障害のあるお子さんの場合、標準的な発達段階とは異なるペースで成長することがあります。そのため、現在の年齢で期待される動作ができない場合は、焦らずに以下のステップを踏むことが大切です:
- 子どもの現在の発達段階を把握する
- その段階に応じた適切な活動を選ぶ
- ゆっくりとしたペースで練習を重ねる
- 小さな進歩を認め、褒める
- 徐々に難易度を上げていく
3-2. 段階的なアプローチ:成功体験を積み重ねる
例えば、はさみで切ることが難しい場合、まずは手でちぎる練習から始め、次に太い線をはさみで切る練習へと進んでいくなど、段階的なアプローチが効果的です。
できなければ、苦手とする時期に立ち戻って、ゆっくり動作の練習をしていく。たくさん練習する時間を設ければ設けるほど、日常生活の困難を克服していけます。
小学低学年までに取り入れたい!感覚統合を促す運動とトレーニング
以下は、感覚統合を促進し、運動能力を向上させるのに効果的なトレーニングです:
- バランスボールに座る:姿勢保持とバランス感覚の向上
- トランポリン:前庭感覚の刺激と全身の協調運動
- なわとび:リズム感と両側統合の向上
- ジグザグ歩き:空間認知と運動企画能力の向上
- 手遊び歌:リズム感と手指の協調運動の向上
- ジャングルジム:全身の協調運動とバランス感覚の向上
- ボール投げキャッチ:目と手の協応、空間認知の向上
- 粘土遊び:手指の巧緻性と触覚刺激の向上
これらの活動は、楽しみながら自然に感覚統合を促進することができます。特にASDやDCDのお子さんには、これらの活動が非常に有益です。
4-1. バランスボールとトランポリンの効果
バランスボールとトランポリンは、感覚統合の観点から多くの効果をもたらします。
バランスボールの効果
バランスボールは、前庭感覚や固有受容覚を刺激し、バランス感覚や体幹の強化に役立ちます。これにより、正しい姿勢を保持する力が身につき、転びにくい体を育むことができます。また、バランスボールを使った運動は、子どもが自分の体の動きを感じ取る能力を高め、感覚統合の改善に寄与します。
トランポリンの効果
トランポリンは、ジャンプすることで全身の筋肉を使い、前庭感覚を強く刺激します。これにより、バランス感覚や協調性が向上します。また、トランポリンのリズミカルな動きは、感覚統合を促進し、子どもの集中力や情緒の安定にも効果的です。トランポリンを利用することで、子どもは楽しみながら感覚統合を高めることができます。両者ともに、感覚統合を促進するための有効なツールとして、発達障害の子どもの療育において活用されています。
家庭用の小さなトランポリンが手軽な価格で購入できます。大人の運動不足解消にも使えるので、手召してみてはいかがでしょうか。床の音、傷が気になる場合は、防音マットなどを引いて、使ってみてください。
4-2. リズム感と協調性を育むなわとびと手遊び
手遊びの効果
手遊びは、手の動きと音楽やリズムを組み合わせることで、リズム感を養います。手を使った遊びは、視覚と触覚を統合し、身体の動きを音楽に合わせることで、協調性を高めます。手遊びを通じて、子どもは他者とのインタラクションを楽しみながら、感覚統合を促進することができます。これらの活動を通じて、子どもたちは感覚統合を強化し、リズム感と協調性を自然に育むことができます。
なわとびの効果
なわとびは、リズム感を身につけるために優れた運動です。一定のリズムで縄を跳ぶことで、子どもはリズム感を養い、身体の動きをタイミングに合わせる能力を高めます。また、なわとびは友だちと一緒に行うことが多く、協調性を育むのにも役立ちます。大縄跳びなどの活動では、友だちと息を合わせて跳ぶ必要があるため、コミュニケーション能力や協力する力が自然と育まれます。
なわとび自体が進化して、色々ななわとびが販売しています。お子さんに合った縄跳びを購入して、段階的にサポートしてみるのもおすすめです。
はじめは、回すところに慣れるのにビニール縄でなく、ヒモタイプの方が回しやすいのでおすすめ。縄が太く、絡みにくいので、片結びの練習もしやすいです。
ビニール縄も回しやすいと飛びやすいので、前とび後ろとびに慣れたら、買い替えがおすすめです。
日常生活に組み込む感覚統合:ASD・ADHD・DCD児におすすめの活動
日常生活の中で、以下のような活動を取り入れることで、自然に感覚統合を促進することができます:
- 食事の準備を手伝う:包丁を使う、野菜を洗う等
- 洗濯物たたみ:両手を使った協調運動
- 階段の上り下り:バランス感覚と両側統合の向上
- お風呂でのスポンジ遊び:触覚刺激と手指の動き
- 公園での遊び:ブランコ、すべり台、鉄棒等を使った全身運動
- ダンス:音楽に合わせて体を動かし、リズム感を養う
- 買い物の手伝い:重さの違う物を持つ、カゴを運ぶ等
これらの活動は、ADHD児の多動性をポジティブなエネルギーに変換するのにも役立ちます。また、ASD児にとっては、日常のルーティンの中で感覚刺激を得る良い機会となります。
5-1.家事手伝いで自然に感覚統合を促進
キッチンが狭く、包丁を使うのにはまだ危ないというなら、缶詰を開ける、納豆のコブクロを開けるといった小さなお手伝いで大丈夫です。指先の力が足りないなら、はさみを使って開けてみることも有効。そのあとに、添付のソースを残らず出す作業が子どもには案外難しかったりします。
洗濯物を畳むことも、まずは自分の体操着や給食袋の用意をしてもらうようにしてみてください。体操着や給食のフキンを上手に畳めるようになってもらいましょう。学校の準備が一人でできるお子さんへと変わっていきます。
少しパパママの時間があるときに、見守りながら、お手伝いをしてもらいましょう。慣れてきたら、自分一人でやってもらうようにすれば、忙しいときの戦力となってもらえるようにもなります。
5-2. 外遊びを通じた全身運動の重要性
思うように体を動かすにはどうしたらいいのか、そんなことを体で覚えてもらえるチャンスです。運動が苦手なお子さんは外に出て遊ぶ機会が少ないことが多いので、長期休みなどを利用して、30分でもいいので、親子で運動してみてください。
例えば、ボール遊びやブランコなどの活動は、固有受容覚や前庭覚を刺激し、バランス感覚や身体の動きを感じ取る能力を高めます。子どもは自分の体を適切に使いこなすことができるようになりますから、本人が自覚なく、よく友達とぶつかってトラブルになってしまうお子さんにも有効です。
バトミントンや自転車、ボール遊び、手を使ったり、何かを握ったりする動作を含む運動は、字を書くのが苦手なお子さんにおすすめです。鉛筆を握る力が不足していたり、上手に鉛筆を動かす操作性を育てたい場合、運動を通して指先の力を育てることができます。
このように、外遊びは体力や運動能力の向上だけでなく、ストレスの軽減や情緒の安定にも寄与し、健全な発育・発達を支えるうえで重要とされています。
子どもの気持ちを尊重:トレーニングを楽しく続けるコツ
感覚統合トレーニングは、決して強制するべきものではありません。子どもが嫌がる様子を見せたら、以下のアプローチを試してみましょう:
- 一旦その活動を中止し、休憩を取る
- 子どもの好きな活動に切り替える
- 別の感覚統合活動を提案する
- 活動の難易度を下げてみる
- 子どもの興味を引くような新しい要素を加える
例えば、バランスボールに座るのを嫌がる場合、代わりにトランポリンを試してみるなど、子どの好みや気分に合わせて柔軟に対応することが大切です。時には、気が付いたらできるようになっていることもあります。焦らず、子どものペースを尊重しながら進めていくことが重要です。無理をしないで、子どもと楽しむことを優先し、長期的な視点で見守りましょう。
まとめ
感覚統合は、発達障害のあるお子さんの成長と学習に重要な役割を果たします。日常生活の中で少しずつ感覚統合を促す活動を取り入れることで、運動能力の向上だけでなく、自信や自己肯定感の向上にもつながります。
特に広汎性発達障害(ASD)、発達性協調運動障害(DCD)、ADHD等の子どもたちにとって、これらの活動は非常に有益です。ただし、一人ひとりの特性や好みは異なるため、子どものペースに合わせて柔軟に対応することが大切です。
専門家のアドバイスを受けながら、家庭でできる感覚統合活動を継続的に行うことで、お子さんの成長を支援することができます。小さな進歩を喜び、共に成長の過程を楽しんでいきましょう。