PR

絵が描けない・・・なぜ?

絵が描けない,図工が苦手 子育て

子どもの「描けない」を理解し、伸ばす

図工の授業で作品が時間内に完成しない、学校の掲示物を見たときに自分の絵の下手さを痛感する——こんな経験はありませんか?多くの子どもたちが、絵を描くことに苦手意識を持っています。なぜ、絵が描けないのか。この問題の背景には、想像以上に複雑な要因が絡み合っています。

絵が描けない理由を探る:発達特性との関係

図工の授業。教室に入るなり、多くの子どもたちの目が輝きます。しかし、中には椅子に座ったまま鉛筆を握りしめ、白い紙を前に途方に暮れている子どももいます。なぜ、このような差が生まれるのでしょうか。

図工が苦手な子どもたちの多くは、発達障害や学習障害と呼ばれる特性を持っています。これらの特性は、絵を描く過程で必要となる様々な能力に影響を与えます。

まず、手先の不器用さが挙げられます。協調性運動障害(DCD)を持つ子どもは、細かな動きをコントロールすることが難しく、思い通りの線や形を紙に表現できないもどかしさを感じています。

次に、目と手の協調運動の難しさがあります。この能力が十分に発達していない場合、頭の中でイメージしたものを紙の上に表現することが困難になります。

空間認知の苦手さも大きな要因です。ASD(自閉症スペクトラム障害)やLD(学習障害)の一部の子どもたちは、物体の位置関係や遠近感を正確に把握し表現することに困難を感じます。これは、立体的な絵を描いたり、画面全体のバランスを整えたりする際に特に顕著になります。

視覚的な情報処理の苦手さも、絵を描く能力に影響を与えます。視覚優位ではない子どもたちは、目で見た情報を正確に解釈し、それを絵として再現することに苦労します。

さらに、ワーキングメモリの弱さも重要な要因です。ADHDや学習障害を持つ子どもたちは、頭の中のイメージを保持しながら描画するという複雑な作業に困難を感じることがあります。

最後に、集中力の持続の難しさがあります。ADHDの特性を持つ子どもたちは、一つの作業に長時間取り組むことに苦労します。図工の授業では、アイデアを考え、下書きをし、色を塗るなど、複数の工程を順序立てて行う必要があります。これは、マルチタスクの能力や情報整理能力が求められる作業であり、ADHD特性を持つ子どもたちにとっては大きな挑戦となります。

これらの要因は、多くの場合複合的に作用し、図工の授業を困難なものにしています。しかし、適切な支援と理解があれば、これらの困難は少しずつ克服することができるのです。

図工の苦手さが他の学習に与える影響

図工での困難は、他の学習場面にも影響を及ぼします。例えば、板書を写すことができない、国語のお話の情景を想像するのが苦手、授業の切り替えに伴う変化についていけないなどの問題が生じることがあります。

板書を写す際には、黒板の文字を認識し、それを自分のノートに再現するという、視覚情報の処理と運動の協調が必要です。これは、絵を描く際に必要なスキルと多くの点で共通しています。そのため、絵を描くことが苦手な子どもは、板書を写すことにも困難を感じやすいのです。

国語の授業でお話の情景を想像することが苦手な子どもたちもいます。これは、視覚的イメージを頭の中で構築する能力、つまり視覚的ワーキングメモリの弱さと関連していることがあります。文章から情景を思い浮かべることができないため、読解力の低下につながることもあります。

さらに、授業の切り替えについていけない子どもたちもいます。これは、注意の切り替えや実行機能の弱さを示唆しています。図工の授業では、アイデアを考える、下書きをする、色を塗るなど、複数の作業を順序立てて行う必要があります。この能力は、他の授業でも重要であり、その苦手さが学習全般に影響を与えることがあるのです。

これらの困難は、不登校のリスクを高める要因にもなり得ます。学習面での挫折感が積み重なることで、学校に行くこと自体に不安を感じるようになる子どもたちもいます。そのため、早期からの適切な支援と理解が不可欠なのです。

絵を描く力の発達段階:一般的なパターンと個人差

子どもたちの絵を描く能力は、年齢とともに段階的に発達していきます。一般的に、以下のような発達段階を経ると考えられています:

  1. なぐり描き期(1〜2歳):無秩序な線を引く段階
  2. 象徴期(3〜4歳):丸や線を組み合わせて何かを表現し始める段階
  3. 図式期(5〜7歳):人や家などの基本的な形を描けるようになる段階
  4. 写実的表現の芽生え期(8〜10歳):より現実に近い表現を試みる段階
  5. 写実期(11歳〜):遠近法や陰影などを意識した描写ができるようになる段階

この発達過程において、手先の運動能力、視覚認知能力、空間認知能力、そして創造力が徐々に向上していきます。同時に、ワーキングメモリや注意力、実行機能といった認知能力も発達し、より複雑な絵を描くことが可能になっていきます。

しかし、発達障害を持つ子どもたちの場合、この発達プロセスが典型的なパターンから逸脱することがあります。例えば、ASDの子どもは細部へのこだわりが強いため、早い段階から非常に精密な絵を描くことができる一方で、全体的なバランスを取ることが難しいことがあります。

また、ADHDの子どもは、集中力の持続が難しいため、一つの絵を最後まで仕上げることに困難を感じることがあります。これは、マルチタスクの苦手さとも関連しており、絵を描く過程で必要となる複数の作業(構図を考える、下書きをする、色を塗るなど)を順序立てて行うことに課題を抱えています。

子どもの発達と学習:様々な理論から見る

子どもの発達は、身体的、認知的、社会的、情緒的側面が相互に影響し合いながら進んでいきます。アメリカの発達心理学者エリク・エリクソンは、人間の発達を8つの段階に分け、各段階で克服すべき課題があると提唱しました。

例えば、学童期(6〜12歳)の課題は「勤勉性 対 劣等感」です。この時期、子どもたちは学校や社会で様々なスキルを習得し、成功体験を積むことで自信を深めていきます。しかし、失敗を重ねると劣等感を抱きやすくなります。

また、ピアジェの認知発達理論によれば、7〜11歳頃は具体的操作期にあたり、論理的思考が可能になりますが、まだ抽象的な概念の理解は難しいとされています。

これらの理論は、一般的な発達の道筋を示していますが、実際の子どもたちの発達は個人差が大きく、特に発達障害を持つ子どもたちの場合、その「発達の凸凹」が顕著に現れることがあります。

例えば、言語能力が高く、聴覚優位の学習スタイルを持つASDの子どもは、抽象的な概念の理解や複雑な会話には長けている一方で、視覚的な情報処理や空間認知に苦手さを感じることがあります。これは、絵を描く能力にも直接的に影響を与えます。

また、ADHDの子どもは、興味のある分野では驚くほどの集中力を発揮する一方で、興味の薄い活動には全く取り組めないことがあります。このアンバランスさが、学校生活や社会生活における適応の難しさにつながることがあります。

重要なのは、これらの特性を「障害」としてのみ捉えるのではなく、その子どもならではの「個性」として理解し、適切な支援を行うことです。

将来を見据えた支援:就労に向けて育むべき力

6歳から18歳までの約12年間は、子どもたちが社会の一員として自立していくための重要な準備期間です。特に、発達障害や学習障害の特性を持つ子どもたちにとって、この期間に適切な支援を受けることが将来の就労や社会生活の質を大きく左右します。

就労を見据えた際に育てておきたい力として、以下のようなものが挙げられます:

  1. 基本的な生活習慣の確立
  2. コミュニケーション能力の向上
  3. 作業の持続力と集中力の向上
  4. 社会のルールやマナーの理解
  5. 自己管理能力の育成
  6. 問題解決能力の向上
  7. ストレス管理能力の育成
  8. 自己理解と自己肯定感の醸成

これらの力は、A型やB型の就労支援施設で働くためにも重要です。A型事業所は雇用契約を結ぶため、より高い就労能力が求められますが、B型事業所は福祉的就労の形態をとるため、個々の特性に応じた働き方が可能です。

どちらの形態であっても、自分の得意なことを活かし、苦手なことを補う方法を身につけることが重要です。例えば、視覚優位の特性を持つ子どもであれば、視覚的な情報を活用した作業手順の理解や、図や絵を使ったコミュニケーション方法を習得することが有効かもしれません。

家庭でできる支援:ゲームに代わる楽しい活動

発達障害や学習障害の特性を持つ子どもたちは、ゲームや動画に没頭しやすい傾向があります。これらのメディアは、即時的な反応や視覚的な刺激が豊富で、ADHDの子どもたちの注意を引きやすいのです。また、ASDの子どもたちにとっては、予測可能で制御しやすい環境を提供するため、安心感を得やすいという面もあります。

しかし、ゲームや動画に費やす時間が増えすぎると、他の重要な活動や学習の時間が減少してしまいます。そのため、家での過ごし方を工夫し、バランスの取れた活動を心がけることが大切です。

以下のような活動を取り入れることで、子どもたちの多様な能力を育むことができます:

  1. 手先を使う遊び:レゴブロック、折り紙、粘土など
  2. 体を動かす遊び:ボール遊び、縄跳び、ダンスなど
  3. 創造的な活動:お絵かき、工作、音楽づくりなど
  4. 社会性を育む遊び:ボードゲーム、ごっこ遊びなど
  5. 読書や物語づくり:想像力や言語能力を育む

これらの活動は、手先の器用さ、目と手の協調運動、空間認知能力、創造力、社会性など、多面的な能力の発達を促します。また、家族との対話や共同作業を通じて、コミュニケーション能力や情緒面の発達にも好影響を与えます。

重要なのは、子どもの興味や特性に合わせて活動を選ぶことです。例えば、視覚優位の子どもであれば、絵を描くことや写真を撮ることから始めるのも良いでしょう。聴覚優位の子どもには、音楽活動や物語の朗読などが効果的かもしれません。

また、これらの活動を通じて、子どもたちがマルチタスクや情報整理の能力を自然に身につけていけるよう工夫することも大切です。例えば、料理を一緒に作る際に、レシピを読み、材料を準備し、調理するという一連の流れを経験することで、順序立てて作業を進める力が養われます。

専門的な支援:デイサービスの役割

発達障害や学習障害の特性を持つ子どもたちにとって、専門的な支援を受けられるデイサービスは非常に有効な選択肢となります。特に、工作など指先を動かす活動が多いデイサービスは、図工や学習面での困難を抱える子どもたちにとって、大きな助けとなる可能性があります。

これらのデイサービスでは、以下のような活動が行われることが多いです:

  1. 手工芸:ビーズ通し、編み物、織物など
  2. 絵画活動:様々な画材を使用した描画
  3. 立体造形:粘土、紙粘土、木工など
  4. 料理活動:簡単な調理や菓子作り
  5. ガーデニング:植物の栽培や手入れ

これらの活動は、単に指先の巧緻性を向上させるだけでなく、様々な認知能力や社会性の発達にも寄与します。例えば、ビーズ通しは目と手の協調運動を促進し、編み物は順序立てて作業を進める能力(実行機能)を向上させます。

また、これらの活動は多くの場合、小グループで行われるため、他者とのコミュニケーションや協調性を自然に学ぶ機会にもなります。さらに、完成した作品を通じて達成感を味わうことで、自己肯定感の向上にもつながります。

ビジョントレーニングの要素を取り入れたプログラムを提供しているデイサービスもあります。これは、視覚的な情報処理能力や空間認知能力の向上に効果的であり、図工だけでなく、読み書きや運動能力の向上にも寄与する可能性があります。

デイサービスでの活動は、学校や家庭とは異なる環境で新しい経験を積む機会となります。これは、子どもたちの視野を広げ、興味の幅を拡大させる効果があります。また、学校では十分に発揮できない能力を見出し、伸ばすきっかけにもなるでしょう。

ただし、デイサービスを選ぶ際は、子どもの特性や興味に合ったプログラムを提供しているかどうかを十分に確認することが大切です。また、学校や家庭との連携を密に取り、子どもの成長を多角的に支援することが重要です。

まとめ:子どもの可能性を引き出すために

「絵が描けない」という悩みは、単に技術の問題ではなく、その子どもの認知特性や発達の特徴と深く関わっています。発達障害や学習障害の特性を持つ子どもたちにとって、絵を描くことは大きな挑戦となることがありますが、それは決して乗り越えられない壁ではありません。

重要なのは、その子どもの特性を理解し、個性を活かした支援を行うことです。そして、ゲームや動画に没頭するのではなく、多様な活動を通じて新しい楽しさを見出すことが大切です。

以下のような方法で、子どもたちの興味を広げ、能力を伸ばすことができるでしょう:

  1. 興味に基づいた活動の提案:子どもの好きなキャラクターや題材を使った創作活動など
  2. 感覚統合を意識した遊び:砂遊び、粘土遊び、水遊びなど、様々な感覚を使う活動
  3. 段階的な課題設定:簡単な活動から始め、少しずつ難易度を上げていく
  4. 成功体験の積み重ね:小さな達成を認め、褒めることで自信を育む
  5. 協力して行う活動:家族や友人と一緒に取り組むプロジェクト

これらの活動を通じて、子どもたちは自分の得意なことを見つけ、新しい楽しみを発見していくでしょう。それは、図工の授業での成功体験につながるかもしれませんし、全く新しい才能の開花につながるかもしれません。

最後に、絵が描けないことで自信を失っている子どもたちに伝えたいのは、絵を描く能力は決してその子の価値を決めるものではないということです。それぞれの子どもが持つ独自の才能や興味を見出し、それを伸ばしていくことが、真の意味での成長につながります。

子どもたちの可能性は無限大です。ゲームや動画の世界だけでなく、現実世界の多様な経験を通じて、自分らしい表現方法と新しい楽しみを見つけていってほしいと思います。

タイトルとURLをコピーしました