地震や台風などの自然災害は、誰にとっても大きな不安と困難をもたらします。しかし、発達障害のある子どもたちとその家族にとって、その影響はより深刻なものとなる可能性があります。
本記事では、発達障害のある子どもたちが災害時にどのような困難に直面するか、そしてそれらにどう備えるべきかを詳しく解説します。適切な準備と理解があれば、発達障害のある子どもたちも安全に避難し、きっと困難な状況を乗り越えることができるでしょう。
災害時に発達障害のある子どもに起こりうること
災害時、発達障害のある子どもたちは特有の反応を示すことがあります。広汎性発達障害（ASD）の子どもは、突然の環境変化に強い不安を感じ、パニック状態に陥る可能性があります。感覚過敏がある場合、地震の揺れや警報音に過剰に反応し、混乱することもあります。
ADHD（注意欠如・多動性障害）の子どもは、災害時の混乱した状況下で集中力を保つことが難しく、指示に従えない場合があります。また、衝動的な行動によって危険な状況に陥る可能性もあります。
発達性協調運動障害（DCD）のある子どもは、避難時に身体の動きがぎこちなくなり、転倒しやすくなることがあります。これは、ストレス下で運動協調能力がさらに低下するためです。
感覚統合の問題がある子どもは、災害時の刺激過多な環境に対処できず、パニックや引きこもりなどの反応を示す可能性があります。
避難場所での起こりうる様子
避難場所では、発達障害のある子どもたちにさまざまな課題が生じる可能性があります。
- 行方不明のリスク：慣れない環境で、ADHD の子どもが衝動的に動き回ったり、ASD の子どもが強い不安から逃避行動をとったりすることで、目を離したすきにどこへ行ったか分からなくなるかもしれません。
- 常同行動の増加：ASD の子どもは、不安やストレスから常同行動（体を前後に揺らす、手をひらひらさせるなど）が増加することがあります。これは自己調整のための行動ですが、周囲の理解が得られないと問題になる可能性があります。
- 感覚過敏による問題：避難所の騒音、照明、人々の動きなどが感覚過敏の子どもにとって耐えがたい刺激となり、パニックや引きこもりを引き起こす可能性があります。
- コミュニケーションの困難：ASD の子どもは、避難所でのコミュニケーションに困難を感じる場合があります。これにより、必要な支援を受けられない、あるいは誤解を招く可能性があります。
- 睡眠の乱れ：環境の変化や不安から、多くの発達障害のある子どもが睡眠障害を経験する可能性があります。
常備薬の不足とその影響
発達障害のある子どもの中には、日常的に薬を服用している場合があります。災害時に常備薬が不足すると、症状のコントロールが難しくなり、避難生活に大きな支障をきたす可能性があります。
- ADHD の薬：集中力や衝動性のコントロールに必要な薬が不足すると、避難所での生活や指示の理解が困難になる可能性があります。
- 睡眠薬や抗不安薬：ASD の子どもが服用している場合、これらの薬が不足すると不安や睡眠障害が悪化する可能性があります。
- 抗てんかん薬：てんかんを併発している子どもの場合、薬の不足は発作のリスクを高めます。
常備薬の確保は災害への備えの重要な一部です。最低でも1週間分の薬を非常用持ち出し袋に入れておくことが推奨されます。また、処方箋のコピーや、服用している薬の名前、用量などの情報を記録しておくことも重要です。
発達障害のある子どものための防災グッズと避難に役立つもの
発達障害のある子どものための特別な防災グッズや避難時に役立つものには、以下のようなものがあります：
①イヤーマフ：感覚過敏のある子どもにとって、騒音を軽減し、落ち着きを保つのに役立ちます。
②お気に入りのぬいぐるみや毛布：慣れ親しんだものは、不安を和らげ、心の安定をもたらします。
③睡眠導入剤：環境の変化による睡眠障害に対処するために有効です。ただし、医師の指示に従って使用することが重要です。
④身元証明：子どもの名前、連絡先、障害の種類、必要な支援などを記載したカードやバッジは、行方不明時や支援を求める際に役立ちます。
⑤症状の説明カード：子どもの障害の特徴や必要な配慮を簡潔に説明したカードは、周囲の理解を得るのに役立ちます。
⑥視覚的スケジュール：予定や手順を視覚的に示したものは、ASD の子どもの理解を助けます。避難リュックに油性ペンとスケッチブックを入れておき、必要に応じて作成してもいいかもしれません。
⑦感覚グッズ：ストレスボールやチューイングネックレスなど、感覚刺激を与えるグッズは、落ち着きを取り戻すのに役立ちます。
避難場所での工夫
発達障害のある子どもが避難所生活を送る上で、以下のような工夫が有効です：
- パーテーション：プライバシーを確保し、視覚的・聴覚的刺激を軽減するために重要です。段ボールや布を使って簡易的なパーテーションを作ることもできます。
- 静かなスペースの確保：感覚過敏や不安が強い子どものために、避難所の一角に静かで落ち着ける場所を設けることが有効です。
- 視覚的な案内：避難所内の案内や手順を絵や写真で示すことで、ASD の子どもの理解を助けることができます。
- 定期的なルーティン：可能な限り規則正しい生活リズムを作ることで、子どもの不安を軽減し、予測可能性を高めることができます。
- 感覚刺激の調整：照明や音量を調整し、感覚過敏の子どもにも過ごしやすい環境を整えることが重要です。
- 支援者の配置：発達障害に理解のある支援者を配置することで、子どもたちのニーズに適切に対応することができます。
まとめ：発達障害のある子どもの災害への備え
発達障害のある子どもたちにとって、災害時の避難は大きなストレスになるかもしれません。しかし、適切な準備と配慮があれば、その困難を軽減することができます。
重要なポイントは以下の通りです：
- 子どもの特性を理解し、予想される反応に備える
- 必要な薬や支援グッズを事前に準備する
- 避難所での生活に配慮し、適切な環境調整を行う
- 周囲の理解と協力を得るための工夫をする
災害は予測不可能ですが、事前の準備と周囲の理解があれば、発達障害のある子どもたちも安全に避難し、避難所生活を送ることができます。家族、学校、地域社会が協力して、すべての子どもたちが安心できる防災対策を整えていくことが重要です。
