私たちの周りには、発達障害や協調性運動障害(DCD)などの特性を持つお子さんがたくさんいます。そんなお子さんたちの中には、家にこもりがちで外で遊ぶことが少なかったり、集団でのスポーツ活動に苦手意識を持っていたりする子も少なくありません。児童発達支援だけでは十分な運動量を確保できないと悩む親御さんも多いでしょう。
しかし、発達に凹凸があるお子さんでも楽しめるスポーツがあります。その代表格が「スイミング」なのです。本記事では、なぜスイミングが発達障害のあるお子さんに適しているのか、そしてどのようにアプローチすればよいのかについて詳しくご紹介します。
なぜスイミングがおすすめ?発達障害の子どもに合う理由
スイミングが発達障害のあるお子さんに適している理由は主に以下の点にあります。
まず、スイミングは個人競技です。サッカーやバスケットボールなどの集団スポーツと違い、他の子どもたちとの複雑な相互作用を必要としません。自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠如・多動性障害(ADHD)のあるお子さんにとって、これは大きなメリットとなります。
また、水中という特殊な環境は、感覚過敏や協調運動の困難さを持つお子さんにとって、むしろ心地よい場所となることがあります。水の浮力によって体重が軽くなるため、陸上では難しい動きも水中では容易になることがあるのです。
さらに、スイミングは静かな環境で行われることが多いため、聴覚過敏のあるお子さんも比較的取り組みやすいスポーツと言えるでしょう。
スイミングで身につくスキル|発達に良い影響とは?
スイミングを通じて、お子さんは様々なスキルを身につけることができます。
まず、複合動作の習得です。泳ぐという行為は、手と足を同時に動かし、呼吸をコントロールするという複雑な動作の組み合わせです。これは、協調性運動障害(DCD)のあるお子さんにとって、絶好の練習機会となります。
次に、実行機能の向上が期待できます。泳ぎ方の指示を聞き、それを実行に移す過程で、ワーキングメモリや注意の持続、抑制のコントロールなどの能力が鍛えられます。
また、マルチタスクの能力も向上します。泳ぎながら呼吸をし、さらにコースを把握するなど、複数のタスクを同時にこなす能力が養われるのです。
そして何より、定期的な運動によって体が丈夫になります。これは、不登校のリスクを軽減することにもつながるかもしれません。
スイミングの最初の難関を乗り越える方法
スイミングを始める際、最初の難関となるのが以下のような点です。
まず、着替えの問題があります。感覚過敏のあるお子さんにとって、水着に着替えることは大きなストレスとなる可能性があります。また、着替えという動作の切り替えそのものが難しいお子さんもいるでしょう。
次に、プールに入るまでの一連の流れを理解し、実行することも課題となります。シャワーを浴びる、プールサイドを歩く、水に入るなど、一つ一つの動作の切り替えが必要となります。
さらに、レッスン中の集中力の維持も重要です。ADHDのあるお子さんにとっては、長時間水中で指示を聞き続けることが難しいかもしれません。
最後に、習い事の時間に合わせて通うための気持ちの切り替えも大きな課題です。日常生活のルーティンを変更することに抵抗を感じるお子さんもいるでしょう。
しかし、これらの課題を乗り越えることは、小学校就学の準備にもなり得ます。着替えや、指示に従う練習、時間を守る習慣など、学校生活に必要なスキルの多くをスイミングを通じて学ぶことができるのです。
学校での水泳授業の現状
近年、学校での水泳授業において、泳げない子どもが増加している傾向が見られます。これには様々な要因が考えられますが、発達障害のあるお子さんにとっては特に難しい課題となっているようです。
集団での指導、環境の変化、複雑な動作の習得など、水泳授業には多くの困難が伴います。そのため、小学校の水泳授業に不安を感じている親御さんも多いのではないでしょうか。
このような状況を考えると、就学前からスイミングに慣れておくことは、お子さんの自信につながり、学校生活をよりスムーズにスタートさせる助けとなる可能性があります。
スイミングに慣れるための5ステップ
では、具体的にどのようにしてスイミングに慣れていけばよいのでしょうか。以下に5つのステップをご紹介します。
Step 1: 環境に慣れる
まずは、プールの環境に慣れることから始めましょう。最初は見学だけでもいいのです。プールサイドで座って、他の子どもたちが泳ぐ様子を見守ることから始めます。視覚優位のお子さんは、この過程で多くの情報を得ることができるでしょう。
Step 2: 水に親しむ
次に、少しずつ水に触れる機会を作ります。足だけ水につける、手で水をすくうなど、お子さんのペースに合わせて水との接触を増やしていきます。この段階では、楽しさを感じることが最も重要です。
Step 3: 基本動作の練習
水中での基本的な動作を練習します。顔を水につける、浮く、キックするなど、一つ一つの動作を丁寧に練習していきます。聴覚優位のお子さんには、動作を言葉で説明しながら練習することが効果的かもしれません。
Step 4: 複合動作へ
基本動作が身についたら、それらを組み合わせた複合動作に挑戦します。例えば、キックしながら手で水をかくなどです。この段階では、ビジョントレーニングの要素を取り入れ、水中での空間認知能力を高めることも大切です。
Step 5: 持続的な練習
最後に、定期的な練習を続けることで、スキルの定着と向上を図ります。この段階では、お子さんの興味や得意分野を活かした練習方法を取り入れると良いでしょう。例えば、数字や色を使ったゲーム形式の練習など、楽しみながら学べる工夫をすることで、長期的なモチベーション維持につながります。
まとめ
発達障害や協調性運動障害があっても、スイミングは十分にチャレンジできるスポーツです。水中という特殊な環境が、むしろお子さんの感覚や運動能力を引き出す可能性を秘めているのです。
スイミングを通じて、体の動かし方や指示の聞き方、時間の管理など、様々なスキルを身につけることができます。これらのスキルは、学校生活や日常生活にも活かすことができるでしょう。
さらに、スイミングで自信をつけたお子さんは、他のスポーツにもチャレンジする可能性が広がります。水泳で培った体力や集中力、指示理解力は、他のスポーツにも応用できるからです。
もちろん、すべての発達障害のあるお子さんにスイミングが適しているわけではありません。お子さん一人一人の特性や興味、そして家族の状況に応じて、最適なアプローチを選ぶことが大切です。
しかし、スイミングには多くの可能性が秘められています。お子さんのペースに合わせて、少しずつ挑戦していくことで、新たな成長の機会を見出せるかもしれません。水中で感じる浮遊感や達成感が、お子さんの自信となり、新たな世界への扉を開く鍵となることを願っています。
もし、スイミングに通い続けられるのか不安なら、個別で丁寧に教えてくれる家庭教師という選択肢もあります。まずは、マンツーマンで水に慣れるところから教えてもらうのもいいかもしれません。親御さんも近くで見守れるので、安心ですね。